2024年01月08日

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ブログ:スタートアップネイション、イスラエルにおけるフィンテック企業の成長

イスラエルのフィンテック・セクター(全面的または部分的に新技術を活用して金融商品やサービスを供給または生産する企業)は、過去十数年間に著しい成長を遂げ、イスラエルのフィンテック産業はこの分野の世界的リーダーと見なされています。イスラエル銀行のデータによると、現在イスラエルで営業している約500社のフィンテック企業が世界の金融業界を変革しているといわれています。

テルアビブ証券取引所

フィンテックとは

フィンテックは「Finance(金融)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、金融サービスとテクノロジーを結びつけ、従来の金融業務の効率化や顧客サービスの向上を図る取り組みです。 フィンテックの始まりは1860年代、海底ケーブルを用いた電子資金振替(ネットワークを利用した送金・決済)まで遡ります。1950年代にはクレジットカード、1960年代にはATMが登場し、1980年代からは世界各地でオンラインバンキングがスタート。21世紀は、金融機関の業務や顧客との取引も徐々にデジタル化されていきました。

 

2008年の世界金融危機(リーマンショック)の影響で銀行への不信感が高まり、金融業界の優秀な人材はIT業界へ流入。金融業界や消費者の課題を解決するべく、AI(人工知能)やブロックチェーンを活用した新しい金融サービスが次々と登場し、デジタル化の進展とともに、フィンテック産業の幕開けとなりました。 

 

さらにコロナの流行はフィンテック市場に影響を与えました。各国でロックダウンを行ったことなどにより、オンラインショッピング、エンターテインメント、ストリーミングサービス、モバイル決済などの遠隔サービスの利用が増加し、フィンテック産業の採用が強化されました。 

 

フィンテック市場はまだ比較的若く、進化を続けていますが、すでに金融サービス業界に大きな影響を及ぼしており、今後も成長と革新が続くと予想されています。フィンテック企業が提供するサービスを拡大し、新たな市場に参入し続けることで、世界中の金融サービスに対する考え方や利用方法を変革する可能性を秘めています。

 

フィンテック・ソリューションの導入は、効率性の向上、顧客体験の向上、金融サービスへのアクセスの増加、データ分析の強化、イノベーションと競争上の優位性、企業コンプライアンスなど、金融会社に多くのメリットを提供できます。

 

イスラエルのフィンテックの現状

イスラエルのフィンテック産業は、近年非常に大きな成長を遂げ、世界中の企業にとって有数のハブとなっています。2021年、イスラエルのGDPに占めるフィンテック分野の貢献度は約0.5%で、英国、オーストラリア、スウェーデンといったフィンテック導入の先進国と比較しても高い割合となっています。 2023年にはフィンテック領域が拡大し、1740億ドルに達すると予測されており、この成長をリードする主要トレンドは、AIとマシーンラーニング、組込型金融、SaaS、オープンバンキング、IoT、およびブロックチェーンであると考えられています。

 

フィンテック分野には、デジタルバンキング、インシュアテック(保険)、デジタル決済・送金、融資・ローン、ロボアドバイザー、ブロックチェーン・暗号通貨、不正防止・レグテック、リスクマネジメント、データ分析、商取引、投資など、いくつかの分野があります。

 

フルデジタルバンキングプラットフォーム(規制当局の承認済み)、データサイエンス、バイオメトリクス、ブロックチェーン、サイバーなどの先進技術を応用し、従来の銀行、金融、保険分野に入り込んだフィンテックスタートアップが500社以上存在しています。イスラエルの人口規模(930万人)を考えると、世界的に見ても非常に多くの企業が存在しています。評価額が10億ドル以上のフィンテック企業は20社にのぼっています。

 

さらに、テルアビブには、創業者やスタートアップ企業にビジネストレーニングや業界のノウハウを提供することを目的とした、数十のフィンテックアクセラレータープログラム(注1)が存在します。これらのプログラムは、イスラエル(および海外)のスタートアップ企業が、あらゆる業種にわたって、フィンテック企業、金融サービス、規制当局、投資家、学術界、コンサルタント、業界団体を含む世界で最も独特で革新的なエコシステムからの学習支援を目的としています。これらをベースとして成長した、イスラエルのフィンテックスタートアップ企業は、国際的に重要な地位を占めるようになりました。

出典:イスラエル経産省

(注1)アクセラレーターとは、「スタートアップ企業や起業家をサポートし、事業成長を促進する支援事業者」を指す用語です。「アクセラレーター」は、英語で「Accelerator」=「加速させるもの」という意味を持ち、支援事業者が知識・設備・技術・顧客基盤などのリソースをスタートアップ企業に提供し、事業の発展を促進、成長させていくことを表しています。

「アクセラレータープログラム」はスタートアップや一般企業内の新規事業部門に対し、アクセラレーターが支援することで共創・協業を目指すもの。アクセラレーターと支援対象の相互成長を目的に、当事者双方が利点を享受する事業モデルについて実証を行います。

イスラエルフィンテック企業のテクノロジーとサービス

フィンテックにおけるテクノロジー:

  1. AI(人工知能)ビッグデータ解析・管理と機械学習:イスラエルのスタートアップ企業は、ビジネス分析、アプリケーション、サイバーセキュリティ、ヘルスケアなど、さまざまな目的でAI技術を開発・応用しています。フィンテック産業においてもこの分野におけるテクノロジーが活用されています。
  2. 組込型金融(注2):イスラエルにおける組み込み金融産業は、年率4%の成長を遂げ、2023年には6億520万ドルに達すると予想されています。企業がクレジット商品を構築、発売、拡大するためのインフラを提供し、クレジットカード、クレジットラインの割り当て、BNPLBuy Now, Pay Later)提供などの用途で顧客の信用力を評価するのに役立ちます。
  3. サービスとしてのソフトウェア(SaaS): SaaS分野は2023年には年平均成長率18%で6,230億ドルの大台に乗ると予想されています。SaaSの利用によって、個々の企業が独自に導入するのは困難で高価なデータ保存と管理のために強化されたセキュリティ・プロトコルを備えた強力なツールにアクセスできるようになります。
  4. オープンバンキング:顧客が金融情報を第三者と安全に共有することを可能にする金融技術であり、顧客が金融をより柔軟に管理できるようにするものです。
  5. モノのインターネット(IoT): IoTが銀行業務の安全性、効率性、利便性を高めたことから、フィンテックへの影響は計り知れないものとなっています。銀行は製品に組み込まれたセンサーを使って顧客の行動をチェックし、対応を自動化しています。
  6. ブロックチェーン:さまざまな種類の取引を記録し、検証するデジタル台帳です。セキュリティ上の利点に加え、分散型であることからコスト削減にもつながる可能性を秘めています。

(注2)金融サービスが別のサービスに「組み込まれて」機能を発揮するもの。配車サービス「Uber」のように事前にクレジットカードなどの設定を済ませておくと、サービス完了と同時に支払いは完了し、ドライバー側は報酬を受け取っている。 同様の「サイフ不要」決済サービスが例としてあげられる。

 

次にイスラエルの代表的なフィンテック企業が提供しているサービスを具体的に見ていきましょう。

 

Pagaya―未来の返済能力を割り出す

2016年に創業して以降、毎年資金調達を重ねていて、イスラエル企業の特徴となっているAIを資産運用に生かしている注目の企業。

2000以上のデータポイントをマクロ経済のデータと合わせて分析し、未来の返済能力を割り出してABS(資産担保証券)を運用している。

 

Rapyd Financial Network―900種類の支払い方法に対応

2015年に創業。世界中で900種類の支払方法に対応しており、企業のボーダーレスなビジネス展開を可能にしている。

 

Tipalti―多国間での支払先情報を一元化して管理する

多国間での支払先情報を一元化して管理するサービスを提供している。ツイッターやウーバーなどの多国籍企業(MNC)に採用され、すでに年間100億ドルの取引を扱っているという。 

 

Bio CatchAIを利用した行動生体認証による不正利用防止

AIを利用した行動生体認証をしている。ユーザーのスマホの使い方やタイピングの癖などから不正利用を割り出す。

 

Fund box―企業データから取引関係などを分析してスコアリングを行うことで、中小企業が未払い請求書を使って迅速な借り入れを可能にしている。また、市場平均を大幅に下回るデフォルト率を実現しているという。

 

Sunbit―身分証明をかざすことで一定額の融資を受けられる。信用履歴のない移民は従来の銀行から融資を認められにくいため、長年手つかずの市場として取り残されていた。

 

政府の支援

  1. イスラエル・イノベーション庁(旧経済省主任科学者室)は産学間の共通プロジェクトを重視した一連の取り組みに融資することで、学術界での活動を支援しています。前回の記事にも詳細を書いています。

  2. 1993年に政府が打ち出したヨズマ・プログラム(ヘブライ語で「イニシアチブ」の意): イスラエルに進出している外国VC(ベンチャー・キャピタル)に税制優遇措置を提供し、政府からの資金で投資を倍増させると約束。民間セクターの研究開発を推進する道を開いたと同時にVC産業を開始しました。今日、イスラエルには約70の活発なベンチャー・キャピタル・ファンドがあり、そのうち14はイスラエルに事務所を構える国際的なVCです。

  3. ハイブリッドプログラム:イスラエル・イノベーション庁は、シードステージおよびアーリーステージのスタートアップ企業を支援する新たな資金提供プログラムを開始しました。このプロジェクトに8000万NIS(2500万ドル)を計上しました。
    このプログラムでは、国内のスタートアップ企業や、ハイテク産業において代表的でないコミュニティ(アラブ系イスラエル人、超正統派、女性)の創業者を持つ企業に対して、最高110万ドルまでの投資ラウンドの40%相当、および投資ラウンド全体の50%相当の助成金を参加企業に提供しています。

    金融市場の競争力強化に向けたイスラエル政府主導の取り組みーData Sandbox―

    イスラエル政府は金融市場の競争力強化のためにイニシアチブをとってきました。このイニシアチブは、イノベーションを促進し、より競争的で効率的な金融セクターを促進することを目的としています。

     

    政府は規制上のサンドボックスや金融上のインセンティブ(動機、魅力)を提供することで、フィンテック分野の成長を積極的に支援してきました。2020年6月、イノベーション庁は、証券取引庁(ISA)、およびイスラエル銀行とともに、伝統的な金融機関とフィンテックスタートアップ企業との間のイノベーションとコラボレーションを促進することを目的としたフィンテック・イニシアチブーData Sandbox―を立ち上げました。

     

    このData Sandboxプロジェクトは、参加するスタートアップに対して証券取引庁とテルアビブ証券取引所(TASE)のデータを開放することで、フィンテック業界のニーズや規制に即したソリューションを作っていこうという大胆な取り組みです。革新的なアイデア、技術、ビジネスモデルをテストし、評価することができる管理された環境またはフレームワークで金融業界で一般的な規制遵守の負担を負うことなく、実験ができる場を提供します。基本的に、サンドボックスは、企業、スタートアップ企業、起業家が、規制当局の監督と指導のもとで、アイデア、製品、サービスを探求し、検証することを可能にします。サンドボックスは、参加者がより柔軟で協力的な方法で規制要件を取り扱うことで、イノベーションの育成と消費者の利益保護のバランスを取ります。選ばれた企業は、プログラムに参加し、流動性の向上、デジタル・ツールを利用した認証方法、異常な取引の特定など、さまざまな課題への解決策を考えていきます。

    日本企業との今後

    保険、金融業界のデジタル化を支援するインシュアテック企業EasySendのサービスが損害保険ジャパンに導入され、両国企業の協業連携がはじまっています。このような形で日本企業でも他のサービスが導入される可能性があります。

    まとめ

    フィンテック企業は、金融市場のプロセスの改善や合理化、競争の強化を支援し、その結果、消費者のコスト削減や消費者に提供されるサービスのスピードと質の向上に貢献することができます。コロナ禍の経験からも、世界的に金融包摂が進み、デジタル決済の利用が進む中で、フィンテックが有利であることがわかります。イスラエルのフィンテック分野は発展しており、アップデートし続けているため、日本を含む世界中の企業とのコラボレーションへの可能性を持っています。

    イスラエルのフィンテック企業にご興味のある方

    イスラエルのフィンテック企業のほとんどが現地の金融機関にソリューションを提供するBtoBまたはBtoBtoCビジネスモデルを取っているため、協業連携に適している特徴を持っています。

    ご興味のある方、ご質問など、ぜひお問い合わせください。

    以下よりご連絡ください。

    [email protected]

     

    参考資料

    1. "Israel’s Fintech Industry, A Customer and Market Perspective" Israel Securities Authority,  January 2023
    2. "Fintech and the Future of Finance, Market and Policy Implications" Erik Feyen, Harish Natarajan, and Matthew Saal, The World bank group, 2023
    3. FinTech Journal https://www.sbbit.jp/article/fj/38249

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