2023年08月29日
NGLIからのお知らせブログ:スタートアップネイションイスラエルとそのイノベーション・エコシステムー技術移転機関(TTO)の役割ー
現在の私たちの生活に関わっている革新的な技術はイノベーション・エコシステムが確立しているイスラエルから開発されているものが多いことを知っていますか。イノベーション・エコシステムの中で大きな役割を果たしている産学連携とその中核を担う技術移転機関(TTO)についてご紹介します。
スタートアップネーションとしてのイスラエル
イスラエルはイノベーションの進んだ国、スタートアップ大国として知られるようになってきています。人口900万人強,面積は日本の四国程度でありながらも,毎年500〜1000社程度のスタートアップ企業が生まれ,活動中のスタートアップ企業の数は約8、000社にのぼると言われています。研究開発費の対GDP比も世界1、2位を争っており、GDPの約5.6%を研究開発に費やしています。(図1)
イスラエル発の技術の一例として挙げられるのは、USBメモリー、フラッシュメモリ、ファイル圧縮技術(Zip ファイル)、インテル製のマイクロプロセッサー、Google サジェスト機能(検索を行う時に一緒に検索されることが多いキーワードを表示する機能)、iPhoneの顔認証システム「Face ID」や、通話モニター(IP音声電話:Skypeの原型的技術)、チャットアプリ(LINEなどの原型的技術)、ネット決済詐欺対策ソフト、レーシック、レーザー脱毛技術、長期貯蔵可能なミニトマト、種無しブドウ、SodaStream(炭酸水などを作る機械)など多岐にわたっています。
産学連携に牽引されるイスラエルのイノベーション・エコシステム
イノベーション・エコシステムとは、多様な組織が協同することで新たな付加価値を創出し、イノベーションを生み出すシステムを指します。エコシステムとは、本来「生態系」を意味します。現代はITや経営の分野で「複数企業や人物が結びつくことで循環し、共創・共栄していくしくみ」という意味でも使用されるようになりました。
グローバル・イノベーション・インデックス(GII・図2)によれば、イスラエルの産学連携は世界トップと評価され、イスラエルテクノロジー界における歴史的なブレークスルーの大部分は、アカデミア発の研究に基づいています。研究者による新たな発見が商業的に応用されることで、新たな発展と進歩の世界が生まれています。ヘブライ大学のアムノン・シャシュア教授が開発した自動車用コンピューター・ビジョン・システムがMobileye社で応用され、2017年にはインテルが車載用単眼カメラシステム(自律走行技術)を開発・販売する Mobileye社を153億ドル(1兆7,000億ドル)で買収したことは日本でも記憶に新しいのではないでしょうか。アムノン・シャアシュアはイグジット(Exit)後、イスラエルで最初の本格的なデジタルバンクスタートアップを創業しました。
イスラエルの学術機関で行われる産学間の共同研究の86%は多国籍企業によって行われています。イスラエルには、マイクロソフト、アップル、グーグル、サムスンなど350以上の企業の研究開発センターがあります。これら多国籍企業の活動に起因していることがわかります。結果、研究開発のプロセスは企業KPI(重要業績評価指数)に基づく評価がなされ、研究者においても産業セクターの現状の課題の理解が高まります。教授自身がシリアルアントレプレナー(連続起業家)で門下PhD研究者がCEOとして複数のスタートアップを起業するケースもしばしば見られます。
アイデアの実証を支援するイスラエル政府・イノベーション庁
学術研究段階から事業化のステップへの出資は特にリスクが高く、民間投資機関や民間企業には高いハードルとなっています。そこでイスラエル・イノベーション庁(IIA=旧経済省主任科学者室)は初期技術検証を含む産学間の取り組みに融資することで、企業が持つ産業界のノウハウを活かしながら実用性を重視した支援を行っています。同時にこのようなプログラムの審査過程には産業界の識者が関与し、事業化の助言や目利き(非現実的な技術のフィルタリング)が行われる機会にもなっています。
主なプログラムは以下の通りです:
- MAGNET(マグネット): このプログラムは、新技術の開発において、産業界と学術機関のコンソーシアムの設立を奨励するものです。このプログラムは長期的なもので、1プロジェクトあたりの資金枠は最長5年です。すでに10年以上続いており、150社が参加しています。
- MAGNETON(マグネトン):学術界から産業界への技術移転を支援するプログラムで、主にPOC(概念検証)(注1)を実施することを目的としています。1つのプロジェクトにつき、最大2年間の助成を受けることができます。
- NOFAR(ノフェル):このプログラムは、産業界が支援するフィジビリティスタディ(注2)の学術研究が、基礎研究から応用研究へと移行することを支援するものです。
上記のプログラムに加え、20~25の「インキュベーター」(注3)があり、学術界からスピンオフされるスタートアップに対しては特に高い助成金が付与されます。
(注1)新しい手法やアイデアなどを実験的に試行し、検証を行うこと。
(注2)実現可能性を図るために調査・検証すること。
(注3)新規事業の立ち上げをサポート・育成する団体・組織。
産学連携のノウハウが結晶化する、技術移転機関(TTO)
イスラエルでは、全ての大学と研究機関が技術の商業化プロセスの仲介役を担う技術移転機関(TTO)を設置しています。TTOにはスタートアップの創業プロセスや、助成金やファンディング、特許管理による知的財産の保護、商業ライセンスの知見が集積しています。多くの場合TTOの資本の全てが大学により保有される子会社で、商業価値を生み出した研究の成果が学術研究の更なる活性化に還元される目的となって活動しています。IP(知的財産権)のライセンスアウトとスポンサーリサーチが主な役割です。
技術移転機関の主な特徴:
- アイデアについて産業界での潜在的な優位性を評価します。
- 科学論文発表の前に技術移転機関の名義で特許出願を行います。
- 実用化アプリケーションを見据えた産業界のパートナー候補の探索。
- 特許出願をその特許が生かされると思われる技術が盛んな国々に拡大し、産業界のパートナー候補をフォローします。
- 外部企業へのライセンス契約を行います(このうち70%は国外の企業)。
- 研究者へ特許料を還元するだけでなく、商品宣伝にも対処します。
日本企業にとって、イスラエルで産学連携するメリット
上記の特徴からイスラエルではグローバル市場の産業課題に取り組む実用的な研究が多いため、日本企業の求める産業課題にも対応できるキャパシティーを持っています。そして、それぞれの研究開発が技術の用途アプリケーションに影響することができる柔軟なフェーズを兼ね備えており、各企業の産業課題に柔軟に対応できる強みを持っています。学術研究段階から事業化のステップへの出資はリスクが高い反面、比較的高い株式が取得できるため研究開発の方向性に影響を与ることができます。日本ではアカデミア連携は最低数年、開発時間がかかると考える人が多く、確かに製品販売がすぐできるわけではありませんが、イスラエルの学術界は企業との協業に慣れているため、企業が求める方向性を重視し、その目標に向かうスピードが早く、アカデミア連携を探索の視野に入れる事はメリットがあるといえるでしょう。
まとめ
イスラエルではサイバーセキュリティ、フィンテック、AIだけでなくフードテック、アグリテック、代替プロテインに関連したセクターや最近ではバイオコンバージェンス(バイオロジーと工学の統合)やヘルスケアも注目分野として挙げられています。
これらの分野も産学連携による共同開発で商品化につながっており、今後もさまざまな可能性を広げることになるでしょう。
イスラエルにおける産学連携にご興味のある方
イスラエルのビジネスカルチャーは非常にオープンで、海外の企業との連携には積極的です。一方組織内の取り継ぎや手続きには時間がかかり、スムーズな取引には個人的な繋がりが最も重要とされます。NGLIは日本・イスラエル間のビジネスに精通するマネジメントチームによる高い責任感により、イスラエルのアカデミアにおいて事業機会を探索する日本企業に信頼される支援サービスを提供しております。
イスラエル発の技術を活用した製品の共同開発、新規事業、事業拡大をサポートいたします。
ご興味のある方、ご質問など、ぜひお問い合わせください。
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参考資料
- ITTN (Israel Technology Transfer Network), Israeli Central Bureau of Statistics
- “Technology Transfer in Israel”, Brenda S. Ohara